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04 — 地下

夏でも氷が張る、
地下の富士山。

噴火で流れた溶岩の表面が先に冷えて固まり、中身がまだ液体のまま流れ去ることで、内部が空洞になる ――こうしてできる「溶岩洞窟」が、富士山麓には数百と確認されています。真夏でも氷が解けない氷穴、 風が吹き出す風穴、木がそのまま鋳型のように残った溶岩樹型。地表からは想像しにくい、富士山の もう一つの姿を紹介します。

手すりが設置された溶岩洞窟の内部
溶岩がつくる、天然の冷蔵庫

できかたの仕組み

溶岩トンネル——外側が固まり、中身だけが流れ去る。

玄武岩質の溶岩は粘り気が少なく、さらさらと川のように流れます。厚みのある溶岩流が斜面を流れ下る とき、外気に触れる表面や側面から先に冷えて固まり、内部にはまだ高温の溶岩が液体のまま流れ続けます。 やがて供給源の噴火が収まると、内部の溶岩だけがそのまま流れ去り、外殻だけが残って中空のトンネルに なる――これが「溶岩洞窟」のできる仕組みです。

富士山麓、特に樹海周辺には、こうしてできた溶岩洞窟が数百カ所確認されており、日本国内でも屈指の 密度を誇ります。多くは貞観大噴火(864年)の際の溶岩流によって形成されたと考えられています。

天然の冷蔵庫

鳴沢氷穴と富岳風穴——夏でも溶けない氷。

樹海の入り口付近にある「鳴沢氷穴(なるさわひょうけつ)」は、洞窟内の気温が年間を通じて0℃前後に 保たれ、真夏でも壁面や床に氷柱・氷塊が見られる溶岩洞窟です。かつては天然の冷蔵庫として、氷を 切り出して蚕(かいこ)の卵の保存や、氷の貯蔵・販売に実際に利用されていたという歴史があります。

すぐ近くにある「富岳風穴(ふがくふうけつ)」は、鳴沢氷穴よりも規模が大きく、総延長は数百メートルに およびます。こちらもかつて蚕種(さんしゅ、蚕の卵)の貯蔵庫として使われた歴史を持ち、洞内には 当時使われていた貯蔵棚の跡が今も残されています。

ライトアップされた氷柱が並ぶ氷穴の内部
氷穴の内部(イメージ)鳴沢氷穴・富岳風穴周辺
水が流れる溶岩トンネルの内部
溶岩トンネルの内部(イメージ)富士山麓の風穴
溶岩樹型という化石のような跡: 富岳風穴の周辺では「溶岩樹型(ようがんじゅけい)」 と呼ばれる珍しい地形も見られます。高温の溶岩流にのみ込まれた木が、外側だけ溶岩に触れて急激に 冷やされて型を残し、木自体は燃え尽きて空洞になったもので、まるで木の幹の形をした鋳型のような 跡が、地面に垂直・水平に残っています。

信仰と洞窟

人穴——富士講の聖地にして、世界遺産の構成資産。

静岡県富士宮市にある「人穴(ひとあな)」は、溶岩でできた洞窟でありながら、富士山信仰の中心地の 一つとして特別な意味を持つ場所です。富士講の開祖とされる角行(かくぎょう)は、この洞窟にこもって 厳しい修行を行い、独自の信仰体系を確立したと伝えられています。江戸時代には富士講の信者たちの 巡礼地となり、洞窟の周囲には信者たちが建立した数百基もの供養塔・記念碑(碑塔群)が今も密集して 残っています。

この歴史的価値が認められ、「人穴富士講遺跡」として、富士山世界文化遺産の25の構成資産の一つに 正式に登録されています。単なる自然地形としての洞窟ではなく、江戸庶民の信仰の実態を伝える貴重な 史跡として評価されている点が、他の風穴・氷穴とは異なる人穴の特徴です。角行や富士講についての 詳しい物語は、「富士講」のページで扱います。

苔むした岩壁に開いた洞窟の入口から光が差し込む様子
溶岩洞窟の入口(イメージ)富士山麓の洞窟群
岩の間の小さな洞穴の前に石段と灯籠がある祠
洞穴に設けられた小さな祠(イメージ)富士山麓の信仰遺跡

生態系の視点

西湖コウモリ穴——国内最大級の越冬地。

樹海の中にある「西湖コウモリ穴」は、総延长(総延長)が日本の溶岩洞窟の中でも屈指の規模を誇り、 キクガシラコウモリやモモジロコウモリなど複数種のコウモリが越冬・繁殖する、国内でも有数の コウモリの生息地として知られています。一部区間はガイドツアー形式で見学が可能で、溶岩地形と 生態系の両方を間近で観察できる、玄人向けのスポットとして愛好家に親しまれています。

次に読むなら

洞窟にこもった行者たちが、なぜ一大信仰を築いたのか。

人穴で修行した角行から始まり、江戸で爆発的なブームとなった富士山信仰「富士講」。その全体像を 次のページでたどります。

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