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03 — 恵み

降った雨は、
数十年後に湧き出す。

富士山に降った雨や雪の多くは、地表を流れることなく、多孔質な溶岩層にしみ込んで地下水になります。 そのまま数十年という長い年月をかけてろ過され、ふもとのあちこちで清らかな湧水として姿を現す―― これが富士山最大の「恵み」です。忍野八海のような景勝地から、大手飲料メーカーの工場立地まで、 富士山の水がどれほど広く暮らしを支えているかをたどります。

雨水が地下を巡り、湧水になるまで

富士山の水循環

スポンジのような山が、天然の巨大浄水器になる。

富士山は、透水性の高い玄武岩質の溶岩や、砂礫(されき)状のスコリアが幾重にも積み重なってできた 山です。雨や雪はこの多孔質な地層に吸い込まれるように浸透し、ほとんど地表を流れることなく地下水 となります。そのため富士山には、河川がほとんど発達していない一方で、山麓の各所から大量の湧水が 噴き出すという、独特の水循環が生まれています。

地下に浸透した水は、溶岩の間の不透水層に沿って数十年という長い年月をかけてゆっくりと移動・ ろ過され、麓のあちこちで湧水となって地表に現れます。今日、目の前で湧き出している水は、数十年 前――場合によっては新富士火山の若い溶岩層(約1万年前)だけでなく、古富士のさらに古い地層 (約10万年前)を経由してきた水が混ざっているとも言われています。

世界遺産の構成資産

忍野八海——八つの池に映る、逆さ富士。

山梨県忍野村に点在する8つの湧水池「忍野八海」は、富士山の伏流水が地表に湧き出してできた池群で、 富士山世界文化遺産の構成資産の一つにも数えられています。かつてこの地には「宇津湖」という湖が あったものが、噴火や地殻変動を経て縮小・干上がり、湧水地点だけが池として残ったのが現在の姿だと 考えられています。

八つの池はそれぞれ「出口池」「お釜池」「底抜池」など固有の名を持ち、富士講の巡礼者たちが霊場 巡拝の一環として八海めぐりを行ったという信仰上の歴史も持っています。水温はほぼ一年を通じて 13℃前後に保たれ、澄み切った水質と青みがかった水色が、多くの写真愛好家を惹きつけています。

産業への影響

大手飲料メーカーが、なぜ富士山麓に工場を構えるのか。

富士山麓の静岡県・山梨県一帯には、大手飲料・食品メーカーの工場が数多く立地しています。これは 偶然ではありません。富士山の地下水は、年間を通じて水温・水質が安定しており、大量かつ良質な 地下水を安定的に取水できるという、飲料製造にとって非常に有利な条件がそろっているためです。 ミネラルウォーターやビール、ウイスキーなど、水の質が製品の味を大きく左右する業種にとって、 富士山麓は日本有数の適地とされています。

またこの地下水は、農業や養殖業にも恵みをもたらしています。一定の低い水温を保つ富士山の湧水は、 ワサビ栽培や、ニジマスなど冷水性の魚の養殖に適しており、山梨県・静岡県の両県で盛んに活用されて きました。「食と特産」のページでは、こうした水の恵みが生んだ具体的な名産品を紹介します。

白糸の滝という湧水景観: 静岡県富士宮市の「白糸の滝」は、川の水が流れ落ちる 一般的な滝とは異なり、高さ約20メートル、幅約150メートルの絶壁の岩肌そのものから、無数の富士山の 伏流水が染み出すように流れ落ちる、珍しいタイプの滝です。こちらも世界遺産の構成資産の一つです。

次に読むなら

地表に湧き出す前、水は地下のどこを通っているのか。

富士山の地下には、溶岩がつくった洞窟のネットワークが広がっています。湧水の通り道でもあるこの 地下世界を、次のページで探ります。

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