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02 — 樹海

怖い森ではなく、
千年かけて再生した森。

青木ヶ原樹海と聞くと、多くの人がまず「怖い場所」というイメージを思い浮かべるかもしれません。 しかし地質学と生態学の視点で見れば、樹海は864年の貞観大噴火という大災害の跡地に、千年以上を かけて自然が再生させた森であり、独特の地形と生態系を持つ、学術的にも興味深いフィールドです。 このページでは、樹海がどう生まれ、なぜ道に迷いやすいのか、そしてよく語られる噂がどこまで 本当なのかを、事実に基づいて整理します。

青木ヶ原樹海の上に立つ富士山を上空から見た写真
樹海の上に立つ富士山

誕生の経緯

湖を埋めた溶岩が、いま森になっている。

「噴火の歴史」のページで触れた通り、青木ヶ原樹海の土台は864年の貞観大噴火で流れ出した溶岩流です。 当時この一帯には「剗(せの)の海」と呼ばれる広大な湖が広がっていましたが、大量の溶岩が流れ込んで 湖を埋め立て、湖は分断されて現在の精進湖と西湖になったと伝えられています。溶岩に覆われた台地の上に、 千年以上かけて再生してきた自然林が、現在の樹海です。

面積はおよそ30平方キロメートルにおよび、東京の山手線内側の面積の半分近くに相当する広さがあります。 地表のすぐ下が溶岩層であるため土壌が非常に薄く、木々は地表に露出した溶岩の上に根を張り巡らせながら 成長します。根が地表を這うように絡み合う独特の景観は、この「土がほとんどない」という特殊な地質 条件から生まれたものです。

御坂山地側から見た青木ヶ原樹海の広がり
樹海の広がりを上空から写真提供:やまなし観光推進機構

よく聞く噂・その1

「方位磁石が狂う」は本当か?

樹海にまつわる噂で最もよく語られるのが「方位磁石が狂って使えない」というものです。この噂には 一定の根拠があります。樹海の地表を覆う溶岩には鉄分(磁鉄鉱)が含まれており、方位磁石を地面や 溶岩の岩肌に直接近づけると、磁針がわずかに影響を受けることが実際に確認されています。NHKの 「ブラタモリ」など複数の番組・検証記事でも、この現象自体は再現されています。

ただし「使い物にならない」は誇張です: 磁力の影響は、磁石を溶岩にごく近づけた 場合に限られる局所的なもので、腰の高さや手に持った状態で使う通常の方位磁石が、樹海全体で 大きく狂って役に立たなくなる、というほどの影響ではないというのが、複数の検証で共通する見解です。 道に迷いやすい本当の理由は、磁石の異常というより、見通しの悪い密林で目印になる地形が乏しく、 同じような景色が延々と続くことにあります。

よく聞く噂・その2

「携帯電話が圏外になる」「GPSが使えない」?

磁石の噂とセットで語られるのが、電波にまつわる噂です。かつては樹海の奥深くで携帯電話の電波が 届きにくいエリアが実際に多くありましたが、これは磁鉄鉱の影響というより、単純に山間部・森林部で 基地局からの電波が届きにくいという、日本の山岳地帯に共通する事情によるものです。近年は基地局の 整備が進み、状況は変化してきています。

GPS(衛星測位)についても、上空の開けた見通しが確保できれば衛星からの電波は受信でき、樹海だから 特別にGPSが使えなくなる、という科学的根拠は確認されていません。ただし密な樹冠に覆われた場所では 衛星電波が遮られ、通常の森林と同程度に測位精度が落ちることはあります。

生態系という視点

コウモリの越冬地、天然記念物の指定地。

樹海は単なる「不気味な森」ではなく、独自の生態系を育む場所でもあります。樹海には溶岩がつくった 無数の洞窟が点在し、その一部はキクガシラコウモリなどのコウモリ類の貴重な越冬地・繁殖地となって います。また樹海と周辺の湖沼をあわせた一帯は、富士五湖の景観の一部として国の名勝や天然記念物の 指定を受けているエリアも含まれ、学術調査の対象地としても位置づけられています。

樹海の中央部には「西湖コウモリ穴」のように観光利用されている洞窟もあり、溶岩地形と生態系が セットで観察できる場所として、地質・生物の両面から研究者や愛好家に注目されてきました。

本サイトの姿勢について: 樹海は残念ながら、自死の名所というイメージで語られる ことが少なくありません。本サイトでは、その具体的な方法や件数に関する情報は扱わず、地質・生態・ 言い伝えに焦点を当てて紹介する方針としています。悩みを抱えている方は、一人で抱え込まず、 こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)など公的な相談窓口に連絡することをおすすめします。

次に読むなら

溶岩が生んだのは、森だけではない。

樹海の地下には、溶岩が流れた跡にできた洞窟のネットワークが広がっています。風穴・氷穴と呼ばれる それらの地形を、次のページでたどります。

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